一級建築士【施工】鉄骨工事の数値は「理由」で覚える|高力ボルト・溶接・建方精度・スタッドを図解
施工シリーズ第4弾は、ボリューム最大の鉄骨工事です。
高力ボルトの締付け、建方精度、溶接、スタッド溶接……数値も用語も多い分野ですが、ここまでのコンクリート・鉄筋・型枠と同じく、鉄骨という構造の性格を理解すれば、数値は理由から導けます。
じっくり丁寧に進めていきましょう。
⚠️ 数値はJASS 6(鉄骨工事)・建築工事標準仕様書等に基づく代表値です。実務・最新版では条件により異なる場合があります。
鉄骨工事の性格——「工場で精密に作り、現場で組む」
鉄骨造(S造)の最大の特徴は、部材を工場で精密に製作し、現場では組み立てる(建てる)だけという点です。コンクリートのように現場で「材料から作る」のとは対照的です。
ここから、鉄骨工事の数値を貫く3つの軸が出てきます。
① 接合が命——部材どうしのつなぎ目(高力ボルト・溶接)の品質がそのまま建物の強さになる ② 精度が命——工場製作・現場建方ともに、ミリ単位の精度管理が要る ③ 熱に弱い——鋼材は火に弱いので、耐火被覆で守る
「接合・精度・耐火」。この3点で鉄骨工事の数字はほぼ説明できます。
鉄骨工事の流れ
① 鋼材と耐火被覆——「強いが熱に弱い」
鋼材の性質はS造の構造記事で詳しく扱いましたが、施工で外せない1点を復習します。
鋼材は約350℃で強度が常温の約2/3に低下し、さらに高温になると急激に弱くなる。
火災で鋼材が高温になると、建物が一気に崩れる危険がある。だから耐火被覆で鉄骨を守ります。
| 耐火被覆の方法 | 特徴 |
|---|---|
| 吹付けロックウール | 繊維状の材料を吹き付ける。一般的 |
| 巻付け・成形板張り | ロックウールフェルト等を巻く/板を張る |
| 耐火塗料 | 火災時に発泡して断熱層を作る。鉄骨を見せたいときに有効 |
「鋼材は熱に弱い→だから耐火被覆」という因果を押さえておきましょう。
② 工場製作(加工)——精度はここから始まる
部材は工場で加工されます。施工の出題ポイントを整理します。
| 工程 | ポイント |
|---|---|
| けがき | 加工の基準線を引く。490N/mm²級以上の鋼材には、強度低下の原因になるたがね・ポンチの打こん(傷)を残さない |
| 切断 | ガス切断・機械切断など。切断面の精度を確保 |
| 孔あけ | 高力ボルト孔はドリルあけが原則(せん断あけは精度・品質が劣る) |
| 開先(かいさき) | 溶接のために部材端を斜めに加工。溶接が奥まで届くようにする溝 |
「高張力鋼に打こんを残さない」は頻出。傷が応力集中・割れの起点になるためです。
③ 建方——ミリ単位の精度で組み立てる
工場から運ばれた部材を現場で組み立てる工程。手順に沿って数値の理由を見ます。
アンカーボルトとベースモルタル
柱脚は、基礎から出たアンカーボルトに固定します。柱を据える前に、レベル調整用のベースモルタルを施工します。
- アンカーボルトは二重ナット等で緩み止めをする
- ねじ山は、ナットから**外に出る(突き出る)**ように余長を確保
仮ボルト——「とりあえず留める」段階
建方では、まず仮ボルトで部材を仮留めし、全体の形と精度を調整してから本締めします。
- 高力ボルト継手:仮ボルトは1群に対し1/3程度かつ2本以上
- 混用・併用継手:1/2程度かつ2本以上(より多め)
- 仮ボルトには中ボルト(普通ボルト)を使う。本締め用の高力ボルトを流用すると、建入れ直しのときに動いてボルトが傷むため
建入れ直しと建方精度
組み上げた骨組の倒れ・ねじれを直す作業が建入れ直し(ワイヤーロープ・ターンバックル等で調整)。最終的に建方精度の許容差に収めます。
| 項目 | 管理許容差 | 限界許容差 |
|---|---|---|
| 建物の倒れ(高さH) | H/4000+7mm かつ 30mm以下 | H/2500+10mm かつ 50mm以下 |
- 管理許容差=施工の大半(おおむね95%以上)が収まるべき目標値
- 限界許容差=これを超えてはならない限界値
2段階あるのは「目標は管理許容差、最低でも限界許容差は死守」という品質管理の考え方です。
④ 高力ボルト接合——「摩擦」で留める
高力ボルトは、強く締め付けて板どうしを圧着し、その摩擦力で力を伝える接合(摩擦接合)。原理はS造の構造記事で扱ったので、ここでは**施工(締め方・検査)**を深掘りします。
摩擦面の処理
摩擦で伝えるので、接触面の状態が命。
- すべり係数0.45以上を確保する(赤錆を発生させる、またはブラスト処理)
- 塗装してはならない(つるつるで摩擦が落ちる)
- 黒皮(ミルスケール)は除去する
締付けの2方法
| 方法 | 締め方 | 確認 |
|---|---|---|
| トルクコントロール法 | 目標トルク値まで締める(締付トルクと張力が比例) | トルシア形ならピンテールの破断 |
| ナット回転法 | 一次締め後、ナットを120°回転 | マーキングのずれ角 |
締付けの手順と順序
締付けは必ず3段階で行います。
① 一次締め(仮に締める)
↓
② マーキング(ボルト・ナット・座金・母材に一直線の印)
↓
③ 本締め(トルクor120°回転)
マーキングをするのは、本締めでナットがちゃんと回ったか・共回りしていないかを線のずれで確認するため。
そして締付けの順序も重要。
ボルト1群の中央部から端部(外側)へ向かって締めていく。
外側から締めると、内側に板の浮き・すき間が残ってしまう。中央から締めれば、すき間を外へ逃がしながら確実に圧着できます。
トルシア形高力ボルトと確認方法
- トルシア形:本締めすると先端のピンテールが破断する。破断していれば本締め完了が一目でわかる
- 高力六角ボルト:マーキングのずれを目視し、締め忘れ・共回りをチェック
- ボルトの余長:ねじ山がナットから1〜6山程度突き出ているのが適正
「ピンテールが折れた=ちゃんと締まった印」と、検査の数字を意味で覚えましょう。
⑤ 溶接接合——「溶かして一体化する」
もう一つの接合が溶接。母材を溶かして一体化するため、品質管理がシビアです。
溶接の種類と部位の名称
| 用語 | 意味・役割 |
|---|---|
| 開先(グルーブ) | 溶接金属を奥まで充填するための溝。完全溶込み溶接で重要 |
| エンドタブ | 始端・終端に付ける仮設の板。欠陥が出やすい両端を母材の外に逃がす |
| スカラップ | 溶接線どうしの交差を避けるための扇形の切欠き。応力集中を防ぐためノンスカラップ工法も増加 |
| 裏当て金 | 完全溶込み溶接で、裏側から溶け落ちを防ぐ |
溶接の品質を左右する条件
- 予熱:厚板・低温時は、溶接前に母材を温める。急冷による割れを防ぐため
- 気象:気温−5℃未満では溶接しない。−5〜5℃では接合部を適切に加熱すれば可。雨・強風時も原則中止(品質が不安定)
- 開先内・溶接部の水分・油・錆は除去(欠陥の原因)
溶接欠陥と検査
溶接は内部が見えないので、欠陥の種類と検査方法がセットで問われます。
| 主な欠陥 | 内容 |
|---|---|
| ブローホール・ピット | 内部・表面の気泡 |
| アンダーカット | 母材がえぐれて溝になる |
| オーバーラップ | 溶接金属が母材に乗り上げ未融合 |
| 溶込み不良・スラグ巻込み | 溶け込み不足・不純物の混入 |
検査は**外観検査+超音波探傷試験(UT)が基本。UTは内部の欠陥を壊さずに調べる(非破壊検査)**ため、完全溶込み溶接部の内部品質確認に使われます。
⑥ スタッド溶接——床(デッキ)と鉄骨を一体化
スタッドとは、鉄骨梁の上に植える頭付きの棒。コンクリート床と鉄骨を一体化させる(ずれ止めの)役割です。アーク放電で一気に溶接します。
検査基準が頻出なので、数値の意味とともに押さえます。
| 検査 | 基準 | なぜ |
|---|---|---|
| 仕上り高さ | ±2mm以内 | 規定どおり溶け込んでいる証 |
| 傾き | 5°以内 | まっすぐ植わっているか |
| カラー(根元のふくらみ) | 全周に包囲 | 溶接が全周でできた証 |
| アンダーカット | 0.5mm以上は不良 | えぐれは欠陥 |
| 打撃曲げ試験 | 施工後**15°**まで曲げて割れなし | 溶接部の健全性を実際に曲げて確認 |
打撃曲げで合格したスタッドは、曲げたまま元に戻さず使用してよい、という点もよく出ます。
○×で総チェック
Q1. 高力ボルトの摩擦面は、すべり係数を高めるため塗装する。
→ ×。塗装は摩擦を低下させる。赤錆・ブラストで0.45以上を確保。
Q2. ナット回転法では、一次締め後にナットを120°回転させて本締めする。
→ ○。トルクコントロール法は目標トルクで管理。
Q3. 高力ボルトの締付けは、ボルト群の端部から中央へ向かって行う。
→ ×。中央から端部へ。すき間を外へ逃がすため。
Q4. 仮ボルトには、本締めに用いる高力ボルトを使用する。
→ ×。中ボルトを使う。高力ボルトを流用すると建入れ直しで傷む。
Q5. 建方時の仮ボルトは、高力ボルト継手1群に対し1/3程度かつ2本以上とする。
→ ○。混用・併用継手は1/2程度かつ2本以上。
Q6. 溶接の始端・終端の欠陥を避けるため、エンドタブを用いる。
→ ○。欠陥が出やすい両端を母材の外に逃がす。
Q7. 気温が−5℃未満でも、接合部を加熱すれば溶接してよい。
→ ×。−5℃未満は溶接しない。−5〜5℃なら加熱して可。
Q8. スタッド溶接の打撃曲げ試験(施工後)は、15°まで曲げて欠陥がないか確認する。
→ ○。合格品は曲げたまま使用してよい。
Q9. 建物の倒れの管理許容差は、H/4000+7mm かつ30mm以下である。
→ ○。限界許容差はH/2500+10mm かつ50mm以下。
まとめ——鉄骨工事の数値も「理由」で導ける
- 鉄骨工事は①接合が命 ②精度が命 ③熱に弱いの3軸で整理できる
- 鋼材は350℃で2/3に低下→耐火被覆で守る
- 高力ボルトは摩擦接合:塗装NG・0.45、一次締め→マーキング→本締め、中央から端部へ、ナット回転法は120°、トルシア形はピンテール破断で確認
- 仮ボルトは中ボルトで1/3かつ2本(混用1/2かつ2本)
- 建方精度(倒れ)はH/4000+7mm・30mm以下(管理許容差)
- 溶接はエンドタブ・スカラップ・予熱・−5℃未満は不可、検査は外観+超音波探傷(UT)
- スタッド溶接は仕上り高さ±2mm・傾き5°・打撃曲げ15°
鉄骨は「工場で精密に作った部材を、現場で正確に組んで、確実につなぐ」構造。だからこそ、接合の品質と精度にあらゆる数値が集中している——この視点を持てば、バラバラの数字が一本の筋でつながります。
施工シリーズは今後、地業工事・仕上げ工事なども順次公開予定です。
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