← 記事一覧へ
一級建築士施工地業工事土工事山留め杭工事ヒービング2026年

一級建築士【施工】地業・土工事の数値は「理由」で覚える|山留め・ヒービング・杭工法を図解

施工シリーズ第5弾は地業(じぎょう)・土工事です。

建物が建つ前、地面の中で行われ、完成すると見えなくなる工事。だからこそイメージしづらく、用語も数値も覚えにくい分野です。

でも、ここまでのコンクリート鉄筋型枠鉄骨と同じく、「地面の中で何が起きているか」を理解すれば、対策も数値も理由から導けます

⚠️ 数値はJASS 3・JASS 4・建築工事標準仕様書等に基づく代表値です。実務・最新版では条件により異なる場合があります。


地業・土工事の性格——「土」と「水」との戦い

建物を建てるには、まず地面を掘り、しっかりした地盤(支持層)に荷重を伝える準備をします。

この工事を貫くテーマは、たった2つです。

① 掘削中、まわりの「土」と「水」をどう抑えるか(山留め・排水・トラブル対策) ② 建物の重さを、深い「支持層」にどう伝えるか(杭地業)

土は崩れようとし、水は湧き出ようとする。それを抑えながら掘り、最後に建物の重さを地中深くの硬い層へ届ける——この視点で地業の数字はほぼ説明できます。

地業工事の流れ

地業・土工事の流れ ① 山留め 土を抑える壁 ② 根切り 掘削+排水 ③ 杭地業 支持層へ ④ 床付け 底面を仕上げ ⑤ 基礎 へ続く

① 根切り(掘削)——「底面を乱さない」

根切りとは、基礎や地下をつくるために地盤を掘削すること。最大の注意点は床付け(とこづけ)面の扱いです。

支持地盤の表面(床付け面)を乱す(かき乱す・こねる)と、支持力が落ちてしまう。

  • 機械掘削は床付け面の手前で止め、最後は人力または平らな爪のバケットで仕上げる
  • 床付け面を乱したり、雨で軟弱化させたら、砂利・捨てコンクリートなどで対処する
  • 掘りすぎ(オーバーディグ)た部分を埋め戻して締め固めても元の支持力には戻りにくい

「掘りすぎ・こねすぎ厳禁。支持層はそっと扱う」——これが根切りの基本姿勢です。


② 山留め——「土が崩れてこないように壁で抑える」

深く掘ると、まわりの土が崩れ落ちてきます。それを抑える仮設の壁と支えが山留めです。

山留め壁の種類

種類特徴
親杭横矢板H形鋼(親杭)を打ち、間に横板を差し込む。安価だが止水性がない(地下水位が高いと不向き)
鋼矢板(シートパイル)凹凸のある鋼板をかみ合わせて連続させる。止水性がある
ソイルセメント壁地盤を掘削しながらセメント系を混ぜて固め、芯材を入れる。止水性が高い
場所打ちRC地中連続壁鉄筋コンクリートの壁を地中に造る。剛性・止水性が最も高いが高価。本体利用も可

止水性が要るか(地下水位が高いか)」で選ぶのがポイント。親杭横矢板は水を止められない、と覚えます。

山留め支保工の種類

掘削で生じる土圧を、山留め壁の内側からどう支えるか。

方式しくみ向く現場
自立式壁の根入れだけで支える(支保工なし)浅い掘削
水平切梁工法壁の間に水平の梁(切梁)を突っ張る一般的・標準
地盤アンカー工法背面地盤にアンカーを打ち、壁を引っ張って支える切梁が邪魔な広い掘削・偏った敷地
逆打ち工法地下の躯体を上から下へ造りながら、それを支保工として掘る大規模・工期短縮

逆打ち工法は「地上と地下を同時に進められる」のが最大の利点、と押さえましょう。

山留め(親杭横矢板+水平切梁工法)の断面 親杭横矢板の壁を根入れし、腹起しと水平切梁で背面の土圧を内側から支える。掘削底より下に根入れ長さをとる。 山留め(親杭横矢板+水平切梁工法) 腹起し 親杭(H形鋼) 横矢板 根入れ長さ 切梁(水平切梁工法) 掘削底 土圧 壁の根入れで土・水を抑え、腹起し+切梁で土圧を内側から支える

③ 掘削トラブル3兄弟——「土の種類」で現象が決まる

地業で最頻出。掘削底面が壊れる3つの現象は、地盤の種類と水の関係で区別できます。丸暗記でなく「何が原因か」で見分けます。

掘削トラブル3兄弟(原因で見分ける) ヒービング 軟弱な【粘土】地盤 背面の土の重みで 底面が押し上げられ 膨れ上がる =粘土が回り込む ボイリング 【砂質】+地下水 水位差で水と砂が 底面から噴き上がる =砂が沸き立つ 盤ぶくれ 下に【被圧地下水】 難透水層の下の 水圧で底面が 持ち上げられる =下からの水圧
現象起こる地盤しくみ
ヒービング軟弱な粘土地盤山留め背面の土の重みで、掘削底面が押し上げられて膨れる
ボイリング砂質地盤+地下水内外の水位差で、水と砂が底面から噴き上がる(砂が沸騰するよう)
盤ぶくれ底面下に被圧地下水難透水層の下の水圧で、底面が持ち上げられる

見分けの軸はシンプル。粘土→ヒービング、砂→ボイリング、下に被圧水→盤ぶくれ

共通する対策の考え方

  • 山留め壁の根入れを深くする(土・水の回り込む距離を長くして抑える)
  • 地下水位を下げる(後述の排水工法)
  • 地盤改良で底面下を固める
  • 盤ぶくれには、被圧水の水圧そのものを下げる(ディープウェルで被圧帯水層の水を抜く)

対策も「原因(土の重み・水位差・水圧)を取り除く」と考えれば自然に出てきます。


④ 排水(地下水位低下)工法——「水を抜く」

掘削中に湧く水を処理する方法。3つの区別が頻出です。

工法しくみイメージ
釜場(かまば)工法掘削底面に集水ます(釜場)を設け、溜まった水をポンプで汲む重力排水・最も簡易
ウェルポイント工法多数の吸水管を地中に打ち込み、真空ポンプで吸い上げる砂質地盤の地下水位低下に有効
ディープウェル工法径の大きい井戸を掘り、水中ポンプで汲み上げる深い・大量の排水に有効

「釜場=ますに溜めて汲む」「ウェルポイント=吸い上げる管」「ディープウェル=井戸」と、しくみのイメージで区別できます。

⚠️ 排水で広範囲の地下水位を下げると、**周辺地盤の沈下(井戸枯れ・近隣建物の不同沈下)**を招くことがある。これも頻出の注意点です。


⑤ 杭地業——「建物の重さを支持層へ届ける」

浅い地盤が弱い場合、杭で深部の支持層へ荷重を伝えます(支持杭・摩擦杭の違いは地盤・基礎の構造記事を参照)。施工では**杭の造り方(工法)**が問われます。

既製杭——工場で作った杭を打つ・埋める

区分工法特徴
打込み杭打撃工法・振動工法締固め効果で支持力が大きいが、騒音・振動が大きく市街地で制限される
埋込み杭プレボーリング根固め工法あらかじめ掘削し、**根固め液(セメントミルク)**を注入して杭を建込む。低騒音・低振動
中掘り工法杭の中空部を掘削しながら杭を沈める

「打込み=うるさいが強い」「埋込み=静かだが手間」という対比で押さえます。

場所打ちコンクリート杭——現場で孔を掘って造る

現場で地盤を掘り、鉄筋かごを建込み、コンクリートを打って造る杭。**3工法の違いは「孔壁の崩れをどう防ぐか(孔壁保護)」**で決まります。ここが最頻出。

場所打ち杭3工法=孔壁保護の方法で区別 アースドリル 安定液 安定液(ベントナイト) リバース 孔内水位 泥水 泥水の静水圧(+2m) オールケーシング 鋼管 ケーシングチューブ
工法掘削方法孔壁保護
アースドリル工法回転バケットで掘る安定液(ベントナイト液)
リバース工法ビットで掘り、土を泥水とともに吸い上げる泥水の静水圧(孔内水位を地下水位より2m以上高く保つ)
オールケーシング工法ケーシングチューブを揺動圧入+ハンマグラブ**ケーシングチューブ(鋼管)**で物理的に保護

3つの違いは「孔壁を液で押さえる(アースドリル)/水圧で押さえる(リバース)/鋼管で囲う(オールケーシング)」。掘削方法ではなく保護方法で覚えるのがコツです。

場所打ち杭で共通の注意——スライム処理

掘削くずが孔底に溜まったもの(スライム)を、コンクリート打込み前に必ず除去します。スライムが残ると杭先端の支持力が出ないためです。

  • コンクリートはトレミー管で、管先をコンクリート中に挿入したまま打ち上げる(泥水・スライムと混ざらないように、下から押し上げる)

⑥ 地盤調査——杭の前提

杭をどこまで打つか(支持層の深さ)を知るための調査も頻出。

  • ボーリングで地中の土を採取し、地層を調べる
  • 標準貫入試験:おもりを落として打ち込み、N値(30cm打ち込むのに要する打撃回数)を測る。N値が大きいほど地盤が硬い

「N値が大きい=硬い地盤=支持層になりうる」と押さえます。


○×で総チェック

Q1. 根切りでは、機械で床付け面まで一気に掘削し、効率を優先する。

×。床付け面は乱すと支持力が落ちる。手前で止め、手仕上げする。

Q2. 親杭横矢板工法は止水性が高く、地下水位の高い地盤に適している。

×。親杭横矢板は止水性がない。地下水が多い場合は鋼矢板等。

Q3. ヒービングは、砂質地盤で地下水とともに砂が噴き上がる現象である。

×。それはボイリング。ヒービングは軟弱粘土で底面が膨れ上がる現象。

Q4. 盤ぶくれは、掘削底面下の被圧地下水の水圧によって底面が持ち上がる現象である。

。対策は被圧水の水圧低下(ディープウェル等)。

Q5. ウェルポイント工法は、井戸を掘って水中ポンプで排水する工法である。

×。それはディープウェル。ウェルポイントは吸水管で真空吸引する工法。

Q6. リバース工法では、孔内水位を地下水位より2m以上高く保ち、静水圧で孔壁を保護する。

。アースドリルは安定液、オールケーシングはケーシングで保護。

Q7. 打込み杭は、埋込み杭に比べて騒音・振動が小さい。

×。打込み杭は騒音・振動が大きい(支持力は大きい)。

Q8. 場所打ち杭では、コンクリート打込み前に孔底のスライムを除去する。

。残ると先端支持力が出ない。


まとめ——地業工事の数値も「理由」で導ける

  • 地業は①土と水を抑えて掘る ②重さを支持層へ伝えるの2軸
  • 根切りは床付け面を乱さない(支持力を守る)
  • 山留め壁は止水性で選ぶ(親杭横矢板は止水性なし)
  • トラブルは粘土→ヒービング/砂→ボイリング/被圧水→盤ぶくれ
  • 排水は釜場(汲む)・ウェルポイント(吸う)・ディープウェル(井戸)
  • 場所打ち杭は孔壁保護で区別:アースドリル=安定液/リバース=泥水(+2m)/オールケーシング=ケーシング
  • 既製杭は打込み(強いがうるさい)/埋込み(静かだが手間)

地業工事は「見えない地面の中の戦い」。土が崩れ、水が湧き、それでも建物を支える準備をする——そのドラマを思い描けば、対策も数値も自然と腑に落ちます。

施工シリーズは次回、仕上げ工事(防水・タイル・左官など)を予定しています。


関連記事: