一級建築士【構造】鉄骨構造の知識まとめ|高力ボルト・溶接・幅厚比・柱脚のポイント
構造文章題シリーズ第3弾は鉄骨(S)構造です。
S造の出題は大きく「接合(高力ボルト・溶接)」「座屈(幅厚比・細長比・横座屈)」「鋼材の性質」の3つ。それぞれ整理していきます。
鋼材の性質——「強度が変わってもヤング係数は同じ」
まず材料から。最重要知識はこれです。
鋼材のヤング係数は約2.05×10⁵ N/mm²で、強度(種類)にかかわらずほぼ一定。
つまり、高強度の鋼材を使っても変形のしにくさ(剛性)は変わりません。「SN490はSN400よりヤング係数が大きい」という選択肢は誤りです。
| 用語 | 内容 |
|---|---|
| 降伏比 | 降伏点÷引張強さ。小さいほど降伏後の余力が大きく、塑性変形能力(粘り)に優れる |
| SN材 | 建築構造用圧延鋼材。耐震性に配慮した規格(B種・C種は降伏比の上限などを規定) |
| 数値の意味 | SN400の「400」は引張強さ(N/mm²)の下限値 |
- 鋼材は温度が上がると強度が低下する(約350℃で常温の約2/3程度に低下)。耐火被覆が必要な理由
- 炭素量が増えると強度は上がるが、伸び(粘り)・溶接性は低下する
鋼材の種類——SS・SM・SNの違い
建築構造用の鋼材記号も問われます。
| 記号 | 名称 | 用途 |
|---|---|---|
| SS材 | 一般構造用圧延鋼材 | 一般用途。溶接性の保証は限定的 |
| SM材 | 溶接構造用圧延鋼材 | 溶接性を確保 |
| SN材 | 建築構造用圧延鋼材 | 耐震性に配慮。建築の主要構造部に推奨 |
SN材はさらに3種に分かれます。
- A種:一般部材用(塑性変形をあまり期待しない部位)
- B種:主要な構造部材用。降伏比の上限・シャルピー衝撃値などを規定(粘りを保証)
- C種:B種に加え、**板厚方向の性能(ラメラテア対策)**を保証。柱梁接合部のダイアフラム等
「地震で粘らせたい主要部材はSN-B種」が基本。降伏比に上限があるのは、降伏後にすぐ破断せず変形できる(靭性のある)鋼にするためです。
鋼の弱点——脆性破壊・疲労・ラメラテア
| 現象 | 内容・対策 |
|---|---|
| 脆性破壊 | 低温・切欠き・衝撃で、粘らずに突然割れる。ノッチ(切欠き)を避ける |
| 疲労 | 繰り返し応力で、降伏点以下でも割れが進む。溶接欠陥が起点になりやすい |
| ラメラテア | 板厚方向の引張で層状に裂ける。SN-C種で対策 |
高力ボルト摩擦接合——「摩擦」で力を伝える
S造の現場接合の主役です。原理の理解がそのまま得点になります。
【高力ボルト摩擦接合の原理】
ボルトを強く締め付ける
↓
板と板が強い力で圧着される
↓
板どうしの「摩擦力」でせん断力を伝える
(ボルトの軸が直接せん断力を受けるのではない!)
| 項目 | 規定・知識 |
|---|---|
| すべり係数 | 摩擦面は0.45以上を確保(赤錆面・ブラスト処理など) |
| 摩擦面の処理 | 塗装してはならない(摩擦力が落ちる)。赤錆はOKどころか推奨 |
| ボルト相互間の中心距離 | 径の2.5倍以上(令第68条) |
| ボルト孔の径 | 高力ボルトではボルト径+2mm以下(径27mm以上では+3mm以下とできる) |
| 引張力との併用 | ボルト軸方向に引張力が作用すると圧着力が減り、摩擦力(すべり耐力)は低下する |
普通ボルトには使用制限がある(令第67条)
普通ボルト接合(支圧接合)は、ナットの緩みのおそれがあるため、使える建物が制限されています。
延べ面積3,000㎡以下、かつ軒高9m以下・張り間13m以下の建築物に限る(緩み止め措置をした場合)
「大規模建築物に普通ボルトは使えない」と覚えましょう。
溶接——種類と弱点を押さえる
| 種類 | 特徴 | 強度の考え方 |
|---|---|---|
| 完全溶込み溶接(突合せ) | 部材断面の全部を溶接で一体化 | 母材と同等の耐力を期待できる |
| 隅肉溶接 | 部材の隅に三角形の溶接 | 有効のど厚=サイズ×0.7 で計算 |
| 部分溶込み溶接 | 一部だけ溶け込ませる | 繰り返し応力や曲げを受ける箇所には使えない |
試験で狙われる知識
- 隅肉溶接のサイズは、薄い方の母材の厚さ以下とする
- 溶接と高力ボルトを併用する場合、先に溶接すると高力ボルトに力を負担させられない(溶接で固まった後ではボルトの圧着が効かない)→ 高力ボルトを先に締めれば両方の耐力を加算できる
- 溶接の主な欠陥:ブローホール(気泡)、アンダーカット(母材のえぐれ)、溶込み不良
- エンドタブ:溶接の始端・終端は欠陥が出やすいため、仮設の板(タブ)の上で始めて終わらせる
接合部の設計思想——「保有耐力接合」
S造で最も重要な設計の考え方がこれです。
継手・仕口(接合部)は、接合される部材が降伏するより先に壊れないように設計する。これを保有耐力接合という。
理由はRCの「曲げ破壊先行」と同じ。地震エネルギーは部材が降伏して粘ることで吸収します。もし接合部が先に壊れると、部材が粘る前に崩壊してしまう。だから接合部を部材より強くしておくのです。
「部材を主役に粘らせ、接合部は脇役として先に壊れさせない」——S造設計の根幹です。
座屈との戦い——S造設計の本質
鋼材は強いぶん部材を細く薄くできます。その結果、S造の設計は座屈との戦いになります。座屈には「板が部分的に折れる局部座屈」「部材全体が曲がる全体座屈」「梁が横にはらむ横座屈」の3種類があります。
① 幅厚比——局部座屈を防ぐ
幅厚比=板要素の幅÷板厚。
幅厚比が大きい(薄くて幅広い)ほど、局部座屈しやすい。
地震エネルギーを塑性変形で吸収するには、局部座屈する前に十分変形できる必要があります。だから靭性を期待する部材ほど幅厚比を小さく制限します。
② 細長比——全体座屈を防ぐ(令第65条)
| 部材 | 有効細長比の上限 |
|---|---|
| 柱 | 200以下 |
| 柱以外(梁・筋かいなど) | 250以下 |
細長比が大きい(細長い)ほど座屈しやすく、許容圧縮応力度は小さくなります。
③ 横座屈——梁の弱軸方向の座屈
曲げを受ける梁は、圧縮側フランジが**横にはらみ出す「横座屈」**を起こすことがあります。
対策は横補剛材を設けること。「均等間隔で配置する」または「端部(応力の大きい部分)に近いほど密に配置する」方法があります。H形鋼では弱軸まわりの細長比で横座屈のしやすさが決まります。
柱脚——3つの形式
鉄骨柱と基礎の接合部(柱脚)は3形式。固定度の違いが出題の核心です。
| 形式 | 構造 | 固定度 |
|---|---|---|
| 露出柱脚 | ベースプレート+アンカーボルト | 小さい(回転しやすい) |
| 根巻き柱脚 | 柱脚部をRCで巻く | 中間 |
| 埋込み柱脚 | 柱を基礎に埋め込む | 大きい(固定に近い) |
押さえどころ:
- 露出柱脚は施工が容易だが、回転剛性が低いため設計でその影響を考慮する
- 根巻き柱脚は、根巻き部分の高さを柱せいの2.5倍以上とする
- 埋込み柱脚は、埋込み深さを柱せいの2倍以上とする
○×で総チェック
Q1. SN490材のヤング係数は、SN400材より大きい。
→ ×。ヤング係数は鋼材の強度によらずほぼ一定(約2.05×10⁵ N/mm²)。
Q2. 高力ボルト摩擦接合は、ボルト軸部のせん断力で応力を伝達する。
→ ×。締付けによる板間の摩擦力で伝達する。
Q3. 高力ボルト摩擦接合の摩擦面には、すべり係数を高めるため塗装を行う。
→ ×。塗装は摩擦力を低下させるため不可。赤錆状態やブラスト処理で0.45以上を確保する。
Q4. 隅肉溶接の有効のど厚は、サイズの0.7倍として計算する。
→ ○。
Q5. 溶接と高力ボルトを併用する場合、先に溶接を行えば両方の許容耐力を加算できる。
→ ×。逆。高力ボルトを先に締め付けた場合は加算できるが、溶接が先では加算できない。
Q6. 鋼材の幅厚比が大きいほど、局部座屈は生じにくい。
→ ×。幅厚比が大きい(薄い)ほど局部座屈しやすい。
Q7. 柱の有効細長比は250以下とする。
→ ×。柱は200以下。250以下は柱以外の部材。
Q8. 露出柱脚は、埋込み柱脚に比べて回転剛性が高い。
→ ×。固定度は露出<根巻き<埋込み。
Q9. 地震時に粘らせたい主要な構造部材には、SN材のB種が適している。
→ ○。降伏比の上限等で靭性を保証。板厚方向の性能まで要るならC種。
Q10. 保有耐力接合では、接合される部材より先に接合部が降伏するように設計する。
→ ×。逆。部材が降伏する前に接合部が壊れないようにする(接合部を強く)。
Q11. 降伏比が大きい鋼材ほど、塑性変形能力(粘り)に優れる。
→ ×。降伏比は小さいほど降伏後の余力が大きく、粘りに優れる。
Q12. ラメラテアは、鋼材の板厚方向の引張力によって層状に裂ける現象である。
→ ○。SN-C種で対策する。
まとめ
- ヤング係数は強度によらず一定——S造最頻出のひっかけ
- 鋼材はSS・SM・SN、主要部材はSN-B種(粘りを保証)。弱点は脆性破壊・疲労・ラメラテア
- 高力ボルトは摩擦で伝達:すべり係数0.45・塗装NG・孔径**+2mm**・中心距離2.5d
- 普通ボルトは3,000㎡・軒高9m・張り間13mの制限
- 隅肉溶接:のど厚=0.7×サイズ、併用はボルト先行なら加算可
- 設計思想は保有耐力接合(接合部を部材より先に壊さない)
- 座屈3兄弟:幅厚比(局部)・細長比(全体:柱200)・横座屈(横補剛で対処)
- 柱脚の固定度:露出<根巻き(2.5倍)<埋込み(2倍)
S造は「強い材料を細く薄く使う」構造。だからこそ、あらゆる規定が座屈と接合部に集中しています。この視点で整理すると、バラバラの数値が一本につながります。
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