試験本番、何が起こるかわからない|二級建築士製図試験で目撃した実話
「ばきっ」
試験開始直前、静まり返った講義室に鈍い音が響いた。
数十人の受験生の視線が、一斉に音の方向へ向く。
私の、一つ前の席だった。
——これは、私が二級建築士の製図試験本番で実際に目撃した話。
そして「試験の合否は、当日の朝までに半分決まっている」と私が信じるようになった理由でもある。
落ちたら、設計が遠のく
少しだけ時間を巻き戻したい。
当時、新卒一年目の私はハウスメーカーで施工監督として働いていた。
本当は設計志望だった。
インターンのときの話では「最初の半年だけ施工監督を経験する」はずだった。
それが内定承諾後に「半年では短いから一年」になり。
入社する頃には「二年」になっていた。
——あれ、これ、ずっと現場なんじゃないか?
そう気づいた私は心に決めた。
二級建築士を取って、2年目に設計へ転職する。
学科は3月から模試・本番含めてすべて90点超え。
問題は製図だった。学生時代から苦手で、スタート時の製図スピードは資格学校でダントツのビリ。
それでも数ヶ月かけて、なんとか「合格圏」と言えるレベルまで仕上げた。
落ちれば、また設計から遠のく。
そんな思いを抱えて、本番の朝を迎えた。
受け取らなかった「お守り」
試験当日。会場は徒歩15分圏内、時間にも道具にも余裕があった。
我ながら、準備は万全だったと思う。
会場へ向かう道すがら、資格学校のスタッフたちが応援に立っていた。
その中の一人が、何かを配っている。
製図版の角度を出すための、組み立て式の簡易まくらだった。
「いらないかな。荷物になるし」
私はそのまま通り過ぎた。
このときの自分に言ってやりたい。それを受け取らなかったことを、お前は30分後に後悔するぞ、と。
開始直前、その音は鳴った
試験会場は、大学によくある段差のある階段教室だった。
製図版をセットし、最後の知識確認をしながら開始を待つ。
問題用紙が、後ろの席から順に配られていく。
そのときだった。
問題用紙を配りながら段を降りていた試験監督が——段を踏み外した。
体勢を崩した試験監督は、とっさに近くにあったものに手をつく。
受験生の、製図版に。
「ばきっ」
冒頭の音は、このときのものだ。
視線が集まった先で、製図版を支える足が見事に折れていた。
私の、一つ前の席で。
それでも、試験は始まる
製図版の持ち主は、明らかに動揺していた。
当然だ。この日のために何ヶ月も練習してきた相棒が、自分のミスでもないのに、試験開始直前に壊されたのだから。
しかし試験監督も、おそらく雇われの身。代わりの製図版など用意できるはずもない。
結局その人は、折れた足のまま、傾いた製図版で6時間近い試験に臨んだ。
どれほど描きにくかったか。
どれほど動揺を引きずったか。
想像するだけで胸が痛い。
その人が合格したのかどうか、私には知る術がない。
ただ、ひとつだけ確かなことがある。
席がひとつ違えば、壊れたのは私の製図版だった。
あの日から、荷物がひとつ増えた
この出来事以来、私は製図試験に簡易の製図版まくらを必ず持参するようになった。
朝、配っていたあれだ。まくらがあれば、足が折れても角度を作って描き続けられる。
その後、一級建築士の製図試験を2回受けたが、どちらも欠かさず持っていった。
出番は一度もなかった。
それでも、あの「ばきっ」という音を思い出すたび、持たずにはいられなかった。
試験の半分は、当日の朝までに終わっている
どんな試験にも言えることがある。
本番当日、何が起こるかわからない。
風邪を引くかもしれない。お腹が痛くなるかもしれない。電車が遅延するかもしれない。
製図試験ならさらに——
- 会場の机が狭い・傾いている(試験会場ガチャは実在する)
- 隣の人の消しゴムのカスが飛んでくる
- タイマーの電池が当日切れる
- そして、試験監督が製図版を踏み割る
最後のひとつは、確率でいえば宝くじレベルだろう。
でも、ゼロではないことを私は知っている。この目で見たから。
防げるリスクは、前日までに全部潰しておく。
予備の電池、替えの芯、予備のシャープペン、そして簡易まくら。荷物は少し重くなるが、本番中に「もしも」を考えずに済むなら安いものだ。
製図試験は技術だけじゃない。準備も実力のうちだと、あの「ばきっ」という音が教えてくれた 🐱
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