一級建築士【構造】全塑性モーメントと崩壊荷重を図解で完全解説
はじめに
全塑性モーメント(Mp)と崩壊荷重は、一級建築士試験の「構造」分野で近年出題頻度が上がっているテーマです。弾性理論だけでは構造物の限界耐力を把握できないため、塑性設計の考え方は実務でも非常に重要です。この記事では断面の塑性化プロセスから崩壊機構の種類、仮想仕事法による崩壊荷重の導出まで、図解を交えながら丁寧に解説します。試験対策はもちろん、構造力学の理解を深めたい方にも役立つ内容となっています。
全塑性モーメント(Mp)とは
断面に曲げモーメントが作用するとき、断面内の応力分布は荷重の大きさによって次の3段階で変化します。
各ステージの説明
① 弾性状態
断面に作用する曲げモーメントが小さいうちは、応力分布は中立軸を境に線形(三角形分布)になります。最外縁の応力が降伏応力 σy に達したときのモーメントを降伏モーメント My といいます。
My = σy × Z
ここで Z は弾性断面係数で、矩形断面では Z = bh² / 6 です。
② 弾塑性状態
My を超えると、断面外縁部から塑性化が始まります。外縁部は降伏応力 σy で一定となり、内部には弾性的な「弾性コア」が残存します。この状態が弾塑性状態です。
③ 全塑性状態
さらに曲げモーメントが増大すると、断面全体が降伏応力に達します。これが全塑性状態であり、このときのモーメントが全塑性モーメント Mp です。
Mp = σy × Zp
ここで Zp は塑性断面係数で、矩形断面では Zp = bh² / 4 です。
形状係数
形状係数 f は弾性断面係数に対する塑性断面係数の比であり、断面形状の余裕度を示します。
f = Mp / My = Zp / Z
- 矩形断面: Zp = bh²/4、Z = bh²/6 → f = 1.5
- I形断面: f ≈ 1.1〜1.15(フランジに応力が集中するため形状係数は小さい)
塑性ヒンジとは
全塑性モーメント Mp に達した断面は、それ以上のモーメントを負担できなくなり、回転剛性がゼロになります。この状態を「塑性ヒンジ(plastic hinge)」といいます。
塑性ヒンジのポイントは次の2点です。
- 回転は自由:ヒンジを中心に自由に回転できる(機械的ヒンジと同じ)
- Mp は保持:回転しながらも曲げモーメントは Mp を維持し続ける(完全弾塑性体の仮定)
この「Mp を保ちながら回転する」という特性が、崩壊荷重の計算で重要な役割を果たします。
崩壊条件(必要ヒンジ数 = 不静定次数 + 1)
構造物が崩壊機構(メカニズム)を形成するためには、塑性ヒンジが一定数以上必要です。
崩壊に必要な塑性ヒンジ数 = 不静定次数 n + 1
これは、不静定構造物が崩壊するには、不静定拘束を解除するための追加ヒンジが必要なためです。
| 構造種別 | 不静定次数 n | 必要ヒンジ数 |
|---|---|---|
| 単純梁 | 0 | 1個 |
| 一端固定一端ピン | 1 | 2個 |
| 両端固定梁 | 2 | 3個 |
| 片持ち梁 | 0(固定端1個) | 1個 |
各梁の崩壊機構
3種類の梁について、崩壊機構と崩壊荷重 Pu を比較します。
各崩壊機構の解説
① 単純梁(中央集中荷重)
単純梁は不静定次数 n = 0 なので、塑性ヒンジが1個形成されると崩壊します。中央の荷重点にヒンジが生じ、梁は折れ曲がって崩壊します。崩壊荷重は Pu = 4Mp / L です。
② 両端固定梁(中央集中荷重)
両端固定梁は不静定次数 n = 2 なので、塑性ヒンジが3個必要です。最初に両端固定端(最大曲げモーメント位置)にヒンジが生じ、次に中央荷重点にヒンジが生じた時点で崩壊します。崩壊荷重は Pu = 8Mp / L です。単純梁の2倍であり、固定端の拘束効果がよくわかります。
③ 一端固定一端ピン(中央集中荷重)
一端固定一端ピンは不静定次数 n = 1 なので、塑性ヒンジが2個必要です。固定端にヒンジが生じ、続いて荷重点にヒンジが生じると崩壊します。崩壊荷重は Pu = 6Mp / L で、単純梁と両端固定梁の中間の値となります。
仮想仕事法で崩壊荷重を求める
崩壊荷重を求める最も体系的な方法が**仮想仕事法(virtual work method)**です。ここでは両端固定梁の例を使って手順を解説します。
仮想仕事法の手順(ステップバイステップ)
Step 1: 崩壊機構を仮定する
両端固定梁(中央集中荷重)では、不静定次数 n = 2 なので 3個の塑性ヒンジが必要です。崩壊機構は「両端固定端 + 中央荷重点」の3箇所にヒンジが生じる形です。
Step 2: 仮想変位を設定する
中央点に仮想変位 δ を与えます。スパン L = L なので、左右のスパンはそれぞれ L/2 です。
Step 3: 各ヒンジの回転角を求める
変位 δ が小さい(微小変位)とき、各ヒンジの回転角 θ は幾何学的に求められます。
- 左固定端のヒンジ回転角 θA = δ / (L/2) = 2δ/L
- 右固定端のヒンジ回転角 θB = δ / (L/2) = 2δ/L
- 中央ヒンジの回転角 = θA + θB = 4δ/L(左右から合計)
Step 4: 外力の仮想仕事を計算する
外力 Pu が仮想変位 δ の方向に作用するので:
外力の仮想仕事 = Pu × δ
Step 5: 内力の仮想仕事を計算する
各塑性ヒンジでの仮想仕事の合計(各ヒンジで Mp × 回転角):
内力の仮想仕事 = Mp × θA + Mp × θB + Mp × (θA + θB) = Mp × (2δ/L) + Mp × (2δ/L) + Mp × (4δ/L) = Mp × 8δ/L
Step 6: 仮想仕事の原理を適用する
外力の仮想仕事 = 内力の仮想仕事
Pu × δ = Mp × 8δ/L
両辺を δ で割って:
Pu = 8Mp / L
崩壊荷重まとめ表
試験で頻出の崩壊荷重公式を一覧にまとめます。
| 梁の種類 | 荷重 | 崩壊荷重 Pu | ヒンジ数 |
|---|---|---|---|
| 単純梁 | 集中荷重P(中央) | 4Mp/L | 1個 |
| 単純梁 | 等分布荷重w | 8Mp/L² | 1個 |
| 片持ち梁 | 集中荷重P(先端) | Mp/L | 1個 |
| 一端固定一端ピン | 集中荷重P(中央) | 6Mp/L | 2個 |
| 両端固定 | 集中荷重P(中央) | 8Mp/L | 3個 |
| 両端固定 | 等分布荷重w | 16Mp/L² | 3個 |
覚え方のポイント:
- 単純梁の崩壊荷重 = 4Mp/L を基準に考える
- 両端固定は単純梁の2倍(固定端の拘束が荷重分担を高める)
- 一端固定一端ピンは単純梁の1.5倍
まとめ
この記事では、全塑性モーメントと崩壊荷重について以下の内容を解説しました。
ポイント整理
- 全塑性モーメント Mp:断面全体が降伏応力 σy に達したときのモーメント。Mp = σy × Zp
- 形状係数 f = Mp / My:矩形断面では f = 1.5、I形断面では f ≈ 1.1〜1.15
- 塑性ヒンジ:Mp に達した断面は回転剛性がゼロになるが Mp を保持し続ける
- 崩壊条件:必要ヒンジ数 = 不静定次数 n + 1
- 仮想仕事法の手順:①崩壊機構仮定 → ②仮想変位設定 → ③回転角計算 → ④外力・内力の仮想仕事を等置 → ⑤崩壊荷重を算出
試験対策チェックリスト
- Mp = σy × Zp、My = σy × Z の違いを説明できる
- 矩形断面の形状係数 f = 1.5 を導出できる
- 各梁の不静定次数と必要ヒンジ数を即答できる
- 仮想仕事法の手順をスムーズに実行できる
- 両端固定梁の崩壊荷重 Pu = 8Mp/L を自力で導ける
全塑性モーメントと崩壊荷重は、一度原理を理解すれば応用が効く分野です。仮想仕事法の手順をしっかりマスターして、試験本番でも確実に得点できるようにしておきましょう。