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ZEH省エネ建築基準法断熱脱炭素建築ニュース

2027年にZEH基準が引き上げへ|なぜ日本は今、省エネを急ぐのか。世界と比べてわかること

「2027年にZEH基準が上がるらしい」

ぼんやりそう聞いた人は多いかもしれません。

でも、なぜ今なのか。なぜここまで急ぐのか。世界と比べてどの位置にいるのか。

そこを整理しないと、この動きの本質は見えてきません。

正直、私もやりすぎじゃない?物価高騰の中ここまで頑張る必要ある?と調べるまで思っていました。


まず「ZEH」とは何かを確認する

ZEHはZero Energy Houseの略です。

【ZEHの考え方】

建物で消費するエネルギー
  ─ 断熱性能を上げて「消費を減らす」
  ─ 太陽光発電などで「エネルギーを作る」

差し引きゼロ(またはプラス)にする

「省エネ」と「創エネ」の両輪で、建物のエネルギー収支をゼロにしようという考え方です。

住宅版がZEH、非住宅建築物版がZEB(Zero Energy Building)と呼ばれます。


2027年に何が変わるのか

現在の日本では、ZEH認定を受けるための基準が定められています。

2027年度から、この基準が大幅に引き上げられます。名称も**GX ZEH(新ZEH)**に変わります。

現行ZEH vs 新ZEH(GX ZEH)の比較

項目現行ZEH新ZEH(2027年〜)
断熱等性能等級等級5等級6(引き上げ)
一次エネルギー削減率20%以上35%以上(大幅引き上げ)
蓄電池任意5kWh以上 または V2H 必須
HEMS任意必須
認証開始現行2027年度〜

出典:国土交通省「省エネ住宅」、住まいの情報館「2027年からZEH基準が引き上げ」

「断熱等級6」とはどれくらいか

断熱等性能等級は1〜7の段階があります。

【断熱等性能等級の段階(住宅)】

等級1 ── 断熱なし(昭和以前の基準)
等級2 ── 1980年省エネ基準
等級3 ── 1992年省エネ基準
等級4 ── 1999年次世代省エネ基準(★2025年4月から義務化下限)
等級5 ── 現行ZEH水準
等級6 ── ★2027年から新ZEH必須
等級7 ── 最高性能(HEAT20 G3相当)

2025年4月にようやく「等級4以上」が義務化されたばかりですが、すでに2027年には「等級6」が新ZEHの基準になります。

わずか2年でハードルが一段引き上げられるスピード感です。


なぜ今、これほど急ぐのか

背景①:カーボンニュートラル2050の公約

日本は2050年のカーボンニュートラル実現を国際的に宣言しています。

建築分野のCO₂排出量は日本全体の約3割を占めます。

【日本の部門別CO₂排出量(目安)】

産業部門     ── 約37%
運輸部門     ── 約18%
業務・家庭部門── 約30% ← 建築が大部分を占める
エネルギー転換── 約14%

(出典:全国地球温暖化防止活動推進センター)

製造業や自動車だけ削減しても間に合わない。

建物の省エネなしにカーボンニュートラルは達成できない、という現実があります。

背景②:2030年・2050年への段階的ロードマップ

【省エネ義務化のロードマップ】

2025年4月 ── 全新築建物に省エネ基準(等級4)適合を義務化
                (G7唯一の未義務化国という不名誉をようやく解消)

2027年度  ── 新ZEH(GX ZEH)の認証開始
                断熱等級6・削減率35%・蓄電池必須

2030年    ── ZEH・ZEB水準を新築の標準にする目標

2050年    ── 既存建物ストック全体をZEH・ZEB水準へ

「少しずつ上げていく」のではなく、短期間でスピードアップしているのは、2050年目標から逆算した結果です。


世界から見た日本の現在地

ここが、この話で最も重要な部分です。

日本の断熱基準は「約30年遅れ」

建築の省エネ基準を国際比較すると、衝撃的な数字が出てきます。

日本のトップランナー基準(省エネ等級最高水準)でも、ドイツの基準の約2.64倍緩い。

省エネ基準で比較するとドイツの3.88倍緩い。

(出典:LIFULL HOME’S PRESS「日本、ドイツ、スイスの省エネ基準を比較してみた」)

さらに踏み込むと——

日本の1999年「次世代省エネ基準」は、ドイツの1984〜1996年水準と同等。

1999年の日本の「最先端」が、ドイツでは1980年代の基準。約30年の遅れというのは誇張ではありません。

欧州の「パッシブハウス」という基準

ドイツ発祥のパッシブハウスという概念があります。

【パッシブハウスの基準(目安)】

年間暖房エネルギー需要  ── 15kWh/㎡以下
年間冷房エネルギー需要  ── 15kWh/㎡以下
一次エネルギー消費量    ── 120kWh/㎡以下
気密性能(n50値)       ── 0.6回/h以下

断熱材は300mm以上、トリプルガラス窓、熱交換換気が標準。

日本で言う「高性能住宅」と呼ばれるレベルが、欧州の「普通の建物」に近い水準です。

なぜ日本はここまで遅れたのか

「日本の家は30年で建て替える」という慣習と、省エネ基準の遅れは深く関係しています。

① 「夏の暑さ」を優先してきた文化

日本の伝統的な住宅設計は、夏の通風・遮熱を重視してきました。縁側、深い軒、障子。風を通す設計思想です。

一方、欧州は寒冷地が多く、冬の断熱が命題。設計思想の出発点が違いました。

② 「寿命が短い」から断熱にコストをかけない慣習

日本の住宅平均寿命は約30年と言われます(欧米は60〜100年)。

「どうせ建て替えるから」という発想が、断熱性能への投資を抑制してきました。

③ 義務化が政治的に後回しにされてきた

省エネ基準への適合義務化は、欧米では1990年代〜2000年代に進みました。

日本では業界団体からのコスト増への抵抗もあり、長年「努力義務」にとどまっていました。2025年4月に義務化されるまで、G7唯一の未義務化国でした。


建築業界へのインパクト

設計・施工コストへの影響

等級6の断熱性能を確保するには、断熱材の増量・高性能サッシの採用・気密処理の強化が必要です。

坪単価で言うと、等級4水準から等級6に上げるためのコスト増は概ね数十〜100万円程度とも言われます(規模・工法によって大きく異なる)。

蓄電池の必須化はさらに大きな問題です。

現状、家庭用蓄電池(5kWh前後)は設置費用込みで**100万円前後〜**というケースが多い。これが新ZEH認証の必須要件になることで、建築コスト全体を押し上げます。

既存建物への波及

2027年の変更は「新ZEH認証を取得したい場合」の話です。法的な義務化ではありません。

ただし、補助金・優遇税制はZEH認証に連動しているため、実質的な圧力は非常に強くなります。

また将来的には等級6相当の省エネ性能が義務化される流れが見えており、今後の新築はこの水準が前提になっていくと考えておく必要があります。


一般の人・建築を学ぶ人が知っておくべきこと

家を買う・建てる人へ

2027年以降に家を建てる・買うなら——

「省エネ基準に適合している」は最低ライン。
「断熱等級は何か」「ZEH認定を取るか」を確認する。
蓄電池や太陽光発電とのセットで考える。

10〜20年後のランニングコスト(光熱費)の差が
初期コストの差を上回ることは十分ありえる。

建築業界にいる人へ

2027年の基準改正は、設計・施工の両方に影響します。

断熱設計の知識、気密施工の技術、HEMS・蓄電池の知識。これらは今後のスタンダードになります。

「ZEHは補助金を取りたい人向け」という認識は、もう古くなりつつあります。


まとめ

【2027年 ZEH基準改正のポイント】

断熱等性能等級  ── 5 → 6
一次エネ削減率  ── 20% → 35%
蓄電池         ── 任意 → 5kWh以上 必須
HEMS           ── 任意 → 必須

背景にあるもの:
  ─ 2050年カーボンニュートラル目標
  ─ 建築分野がCO₂排出の約3割を占める現実
  ─ 欧米に30年遅れているという危機感

日本の現在地:
  ─ 2025年4月に省エネ基準適合がようやく義務化
  ─ G7最後の義務化国という位置からスタート
  ─ 2027年でようやく欧州の「普通」に近づき始める段階

日本の建築が省エネで世界に遅れているのは、設計者や施工者のせいではありません。

義務化が遅かった、慣習が違った、という構造的な問題です。

ただ、その「遅れ」が今、急速に縮まろうとしています。

建築に関わる人間として、この変化の意味を理解した上で仕事をしていきたいと思います。


参考:

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