一級建築士【構造】仮想仕事の原理・単位荷重法を図解で完全解説
はじめに
仮想仕事の原理は、たわみ・変位を求める強力な手法です。一級建築士試験では単位荷重法(バーチャルワーク法)として出題され、梁のたわみ計算や変位の求め方の核心となります。本記事では、概念の説明から図解・例題まで、試験に必要な内容をステップごとに丁寧に解説します。
仮想仕事の原理とは
仮想仕事の原理(Principle of Virtual Work)とは、「外力のなす仮想仕事 = 内力のなす仮想仕事」という力学の基本原理です。
構造力学では、これを変位計算に応用します。具体的には次の関係式が成り立ちます。
P̄ · δ = ∫ M̄ · M / EI dx
ここで、各記号の意味は以下のとおりです。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| P̄ | 仮想荷重(= 1 と置く) |
| δ | 求めたい変位(たわみ) |
| M̄ | 仮想荷重 P̄ による曲げモーメント |
| M | 実荷重による曲げモーメント |
| EI | 曲げ剛性(ヤング係数 × 断面二次モーメント) |
P̄ = 1 と置くと、式は次のようにシンプルになります。
δ = ∫ M̄ · M / EI dx = (1/EI) ∫ M̄ · M dx
この式が単位荷重法の基本公式です。右辺の積分は「モーメント図の積算(グラフ積分)」と呼ばれ、図形的に計算できるため、試験での計算が大幅に効率化されます。
単位荷重法の手順
単位荷重法は、次の3ステップで変位を求めます。
- 実荷重のM図を描く → 実際に載っている荷重(P など)でモーメント図を描く
- 求めたい点に単位荷重 P̄ = 1 を載せてM̄図を描く → 変位を知りたい点に仮想の集中荷重 1 を載せてモーメント図を描く
- δ = (1/EI) ∫ M̄ · M dx を積算して求める → 2つのモーメント図を「積算」して変位を計算する
以下の図で2つの系を確認してください。
モーメント図の積算公式
∫ M̄ · M dx の積分は、モーメント図の形状(三角形・矩形など)によって公式化されています。試験では以下の2パターンが特に重要です。
積算公式のまとめ
| M図の組み合わせ | 積算公式 | 備考 |
|---|---|---|
| 三角形 × 三角形(頂点が同じ側) | ⅓ · L · M₁ · M₂ | 集中荷重の単純梁によく出る |
| 矩形 × 三角形 | ½ · L · M₁ · M₂ | 等分布荷重と仮想荷重の組み合わせ |
| 三角形 × 矩形 | ½ · L · M₁ · M₂ | 上と同じ(順序は無関係) |
公式の根拠は、それぞれの図形の面積に重心位置の係数を掛けたものです。たとえば「三角形×三角形」では、三角形の面積(½ · L · M₁)と、もう一方の三角形の重心における高さ(M₂/3 × 2 = ⅔ M₂ではなく、積分の結果として ⅓ M₂ が出る)を掛け合わせた結果が ⅓ · L · M₁ · M₂ となります。積分を正確に展開すると
∫₀ᴸ (M₁/L · x) · (M₂/L · x) dx = (M₁ · M₂)/L² · [x³/3]₀ᴸ = (1/3) · L · M₁ · M₂
と求まり、公式が確認できます。
例題①:単純梁・中央集中荷重のたわみ
スパン L の単純梁の中央に集中荷重 P が作用するとき、最大たわみ δmax を仮想仕事法で求めます。
計算の展開
STEP 1:実荷重のM図
単純梁の中央に P が作用するとき、支点反力は左右ともに P/2 です。モーメント図は中央で最大値 PL/4 をとる左右対称の三角形になります。
STEP 2:仮想荷重のM̄図
中央のたわみを求めたいので、同じ点(中央)に P̄ = 1 を載せます。M̄図も同様に左右対称の三角形で、中央の値は L/4 です。
STEP 3:積算
2つの三角形の積算公式(左半分と右半分にわけ、それぞれに ⅓ · (L/2) · M₁ · M₂ を適用して合計)を使います。
δmax = (1/EI) × [⅓ × (L/2) × PL/4 × L/4] × 2
= (1/EI) × 2 × (1/3) × (L/2) × (PL/4) × (L/4)
= (1/EI) × PL³/48
= PL³ / 48EI
これは公式として覚えておく重要な値です。δmax = PL³/48EI
例題②:片持ち梁・先端集中荷重のたわみ
スパン L の片持ち梁の先端に集中荷重 P が作用するとき、先端のたわみ δmax を求めます。
実荷重のM図: 固定端(x=0)で最大値 PL、先端(x=L)で 0 になる右下がりの三角形です。
M(x) = P(L - x) (x は固定端からの距離)
仮想荷重のM̄図: 先端のたわみを求めたいので、先端に P̄ = 1 を載せます。
M̄(x) = 1 × (L - x) = L - x
積算:
2 つの図形はともに同じ向きの三角形(固定端が頂点)です。三角形 × 三角形の公式を使います。
δmax = (1/EI) ∫₀ᴸ M̄ · M dx
= (1/EI) × ⅓ × L × PL × L
= PL³ / 3EI
δmax = PL³/3EI は片持ち梁の先端たわみの基本公式として、必ず覚えておきましょう。
まとめ
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 仮想仕事の原理の基本式 | P̄ · δ = ∫ M̄ · M / EI dx |
| P̄ = 1 と置いた式 | δ = (1/EI) ∫ M̄ · M dx |
| 三角形 × 三角形の積算 | ⅓ · L · M₁ · M₂ |
| 矩形 × 三角形の積算 | ½ · L · M₁ · M₂ |
| 単純梁・中央集中荷重のたわみ | PL³/48EI |
| 片持ち梁・先端集中荷重のたわみ | PL³/3EI |
試験対策のポイント
- 2つの系を明確に分けて描く — 実荷重系と仮想荷重系を混同しない
- 求めたい変位の位置に P̄ = 1 を載せる — たわみを求めたい点と荷重点を一致させる
- 図形の組み合わせパターンを覚える — 三角形×三角形(⅓)と矩形×三角形(½)の2パターンが最重要
- 対称性を活用する — 左右対称な梁は半スパンで計算して2倍にする
仮想仕事の原理(単位荷重法)は、たわみだけでなく角変位(たわみ角)や水平変位の計算にも応用できます。仮想荷重を「求めたい変位方向に対応したもの」に置き換えるだけで同じ手順が使えるため、理解を深めておくと応用問題にも対応できます。